酸味はいわゆる酸っぱいと感じられる成分で、レモンに含まれるクエン酸を始めとしたさまざまな酸味を感じさせる物質から生じます。
それらは生豆の状態でもある程度の割合含まれていて、生豆をかじった程度でも感じることができます。
焙煎後は、それがはっきりとしたシャブリ等の辛口のフランス白ワインにも負けない強さで感じられる時と、そうでないときがありますが、それは産地や焙煎度で大きく変わります。
比較的はっきりいえることは、
1.まず同じ産地、銘柄なら、ナチュラルより、水洗式(ウォシュト)の方が強く出やすい
2.焙煎度がある程度以上深くなると、感じにくくなる。
3.高地産のものの方がより感じられやすく、大粒の方が引き出しやすい
位でしょうか (もちろん、品種の違いや栽培方法の違いも影響するとは思いますが 個別性が強いので、必要とあらば後日検証します)
このうち、3については珈琲の成分がそれだけ濃い、強い、つまりもともと生豆の状態で多くの酸を含んでいるということが考えられますのでいったん保留扱いとします。
では、1.2についてはどうでしょうか? こちらは共通項として、水分との関連性が考えられます。水分のあるところに酸あり。十分に水分のある条件で加熱されると、酸が生成しやすくなる。その水分が抜けきるところまで加熱されると、今度は酸も失われる。そう考えると、
どの程度の水分が豆に残っている段階で、どの程度の火力で加熱するか、そして、どこまで水分が抜けた状態で焙煎完了するかが、酸の量を語るとき、最重要になる可能性があります。そして、ここが焙煎者が一番、関与できる部分となります。
対照的に質については標高など産地の条件による違いによるところが大きく、原料を選んだ後は、焙煎者の力でカバーできる分はあまり多くないと思われます。
ですから、酸をたくさん感じたければ、焙煎の前半にしっかりとカロリーをかける。
水分と一緒にまだ酸が残っているうちに、下す。焙煎を終えるということが大切です。
ということは、水分量が多い豆をカバーするために、単純に投入温度を上げたりすると、酸味が目立ち、場合によっては尖がったコーヒーになる可能性が出てきます。ですから、味のバランスという点で言えば、いわゆるダブル焙煎を行う方が水分の少ない豆とのギャップは少なくなることが予想されます。
また浅煎りで酸が感じられやすいというのは、ある程度コーヒーに親しんでこられた方なら、自明のことかと思います。
少し突き詰めて考えると、酸が過剰と思われる場合、前半の火力を落とすか、少し焙煎を深めにした方がバランスがよくなるでしょう。
しかし前者の方法をとる場合、産地の特徴が表れにくい方向への変化となるでしょう。
後者は多くの香味成分が失われるリスクと隣り合わせです。
あまり焙煎で無理しようとしないで、原料そのものを見直すか、いっそブレンドした方が無難かもしれません。(調整の幅はあるが、もともといい豆なのでもったいない)
また逆に酸味が少ないと感じられる場合、前半にカロリーをかけても、もともと含まれている酸とは別の酸っぱい成分が余計に生成されるだけですので、自然の恵みとは違った単調な味わいの酸になる可能性が高いです。また酸を多く残す目的で、本来の望ましいと思われるポイントから、わすかに浅めに焙煎を終えるとした場合、ディベロプメント不足になるリスクが生じます。はっきり言いますと、酸味が最初から弱い豆は、もともと成分が全体的に薄い傾向にあるはずなので、焙煎で調整しようとすると、酸味が強い豆以上に破綻しやすいと思われます。
こちらも原料を見直すなどして対応した方が現実的です。(失敗のリスクを負ってまで焙煎で収めようとしない方がよい)
(つまり、結局、もともとの豆の持っている性質に逆らわず焙煎するべきだといえます。なお、この焙煎中に生成した酸味が好ましいものと感じられるかそうでないかは後述しますが、酸味以外のテイストや芳香成分とのバランスで変わる部分が大きいと感じています。この段階でお伝えしようとしているのは、主に酸味を感じる成分の量についてであり、おいしいコーヒーの酸味の話ではありません。)