執着が抜けずに臨終を迎えた遺体は死後硬直が激しいとか、本当かどうかわからない話も含めて聞いていて、せめて臨終後の姿が穏やかであってほしいと思っていました。亡くなった直後から、父の顔は少し緩んでいったように感じていました。
いよいよ朝がやってきて、ドクターの死亡診断を受けると、しばらくして、病院のスタッフが来られて父の装いを整えてくれました。
入れ歯を入れたりしているうちに、父の顔は朝日を浴びてますます輝いているように見えました。
下の入れ歯はどうしても入らず、代わりに家にあった脱脂綿で形を整えてくださいました。
さらに下顎を紐で持ち上げて、整えてもらうと、父の顔に生前のまだ元気だった頃の面影が戻り、若い頃の写真をベースに作成した遺影のイメージにかなり近づきました。
表情はちょっとふろあがりに浴衣をきているような、さっぱりした顔にも見えます。
しかも、片目がどうしても完全に閉じなかったのですが、見る角度によっては、ウィンクしているようにもみえ、
「俺はやりきったぜ、とか、バッチリ、生ききったぜ、」とでもいいたげな表情に見えるのです。
全体的に爽やかで、まだまだなんかの拍子に目を醒ましてしまいそうな雰囲気があったので、ホッとしました。
父が眩しい顔をして、今にも起き上がってくるのではないかと、心のどこかで期待させるほどのできでした。