The Coffee Roaster House

just around five pounds retreat

幼い頃の幻想あるいは2番目の記憶

 

幼い頃、それもやっと縁側で体を起こして過ごせるようになった頃のことです。冬の山に積もった雪を見ていると、その下にたくさんの生命の息吹を感じています。

そして、そのはてのはるかに自分が将来出会うであろう多くの友人や知人たちが垣間見えるような気がするのです。それは自分の未来がけっして悲観すべきものではないことを示していました。

ところで、父はその日、普段より少し、早く仕事を終えて帰って来ていました。私には、父の姿が見える前から、その父の考えていることが伝わってくるのです。

当時の自分はちょっと自分の体から意識を離して、俯瞰的に地上を見ているような感覚で周囲を見渡したり、ちょっと変な話ですが、石垣に咲いた花から出てくる妖精のような不思議な存在の姿を感じることができていました。

父は、縁側に座る私の姿を見かけると、こう思っています。ああ、なんというこの子はかわいそうなことか、成人までいきれるかわからない、生きたとしてもまともな人生を送れるとは到底思えない。どうしてこんな子が生まれてしまったのか、と。

その父の思いに、違うんだよと、さっき垣間見たイメージを伝えようと思うのですが、父は私が言葉を理解できないと思い込んでいるので、ほとんど無視してそのまま、家の中に入っていきます。私はというと、半ば瞑想のような状態から、こちら側の意識に戻るのに手間取っていたこともあって、うまく反応できません。

父はその私の様子に、さらに、いきどおって、この子は父をみても、おかえりの挨拶もできん、これは自分の子ではないのではないかと、母を責め始めたのです。

それは弟が生まれてすぐの頃だったはず。

弟は見るからに父親の家系につながると思われる身体的特徴を持って生まれて来たので、それでますます、父はわたしを自分の子ではないのではないかという猜疑心を募らせていたのだと思います。

その少し前だったかと思います。たまたま父が帰宅する直前にセールスマンに掴まって話していたのを見咎められた出来事が下地としてあったので、 母と父は口論となり、口汚い言い争いの中で、言葉が遅くて、まともに歩けないなど発達の遅い私のような子が生まれたのは、母が不倫してどこかの男との間に作った子だから、これは俺の子ではない、といったことを執拗に言い続けているのです。

その父の背後に、マーラー(悪魔)の軍隊がこぞって、取り巻いているのがみえました。

ああ、怖いあんなのにやられたら、2度と天上には帰れない、そう思うと、その恐怖の感情のためか、体の周りを覆っていたバリアが破られて、その軍隊のエネルギーが下半身に侵入して来ると、それまでの清澄な意識はどこかにいってしまって、2度と戻ることはありませんでした。

その後は、その未来をみはらかすような意識はときおり、夢の途中で垣間見るような感覚に陥ることはあっても、どんなに心を落ち着けようが、瞑想しようが体験することは叶わなくなってしまいました。