The Coffee Roaster House

just around five pounds retreat

小さなお豆の宇宙論 (続 小さなおなべの宇宙論)

豆自体が小さな宇宙みたいなものだと考えるくろちゃまめ。

1ハゼ は例えて言えば、最初の星たちが宇宙で誕生し始めた瞬間。

最低70秒とか、90秒、大宇宙のスケールで言えば、1千万年くらいの間は

この状態が続かないと、しっかりとした宇宙の進化のペースに乗れないといわれています。

1ハゼ がどれくらい続くのかは、神のみぞ知る、ですが、通常の焙煎のペースだと、120秒くらいすると、一般には、あるところ、行き着くところまで、いったと見なされます。通常のスペシャリティ風の焙煎はこの辺りで打ち止め。

しかし、その後も焙煎(もしくは加熱)を続けると、1ハゼ は収まるか、火力が強ければ、切れ目なく、2ハゼに入っていくこともあります。

この1ハゼ と2ハゼの間をどう捉えるべきか?

コーヒーの、特に昭和世代の日本人がコーヒーらしいと感じるコクが生まれるのは、2ハゼ以降。そういう意味では2ハゼこそが、お豆の宇宙の多様性を完成させる鍵のようなものではあるのですが、焙煎中の好ましい香りは1ハゼ の少し前から始まって、1ハゼ のピークでそれこそピークに達します。

これ以上は意味がないのではないか、そういう意見もあるかと思います。

でも豆から発散される香りとカップに残る香りは別のもの。綺麗に素晴らしい香りを発散させる焙煎の結果としてのカップが香りたかいコーヒーになる保証はありません。

激しく1ハゼ を起こすなら、その分、大切な香りは豆に残らず発散されてしまっている可能性すらあるのです。せっかく生じた揮発成分をどう豆に残すか。

そのためには、早めに1ハゼ を終わらせるのも一案ですが、やはりハゼがはじまったか、気が付けないくらいに穏やかにはぜさせるというアプローチもありでしょう。

そして、1ハゼ が一段落した後の時間も重要です。2ハゼを迎えるまでの時間をどう過ごすかが、どれだけの成分が豆に残るか、決定的な差を生む可能性があります。

1ハゼ と2ハゼの間はお豆のミクロな宇宙の世界にとって、実は静寂に包まれつつも、重要な時間なのかもしれないのです。

そして、2ハゼが始まります。たくさんの超新星の爆発により、せっかく生まれた揮発成分のかなりの部分が失われていきます。

これを嫌って、2ハゼが始まる直前で焙煎を終えて、ハイとして、出している店は多いと思います。

でも、2ハゼのささやかな衝撃とその作用で生み出される成分がコーヒーにもたら作用は、本当に幅広く、重要ではないかと思うのです。

それは、1ハゼ 後の時間の経過で失われやすい成分とは別の、もっと持続性があり、長い間の保管にも耐えて、劣化せず、却って、エージングによって、上等なワインがじわじわ熟成してゆくような、おそらく乾留によって生成される成分ではないかと思っています。これによって、くろちゃまめが重要視する、よいコーヒーになくてはならない麻薬のようなある成分が安定的に固定されて、コーヒー豆の中に閉じ込められるのではないかと思っています。

もちろん、本当にいい豆を浅煎りでちょっと贅沢に使って、ピークのベストなタイミングで抽出すれば、それはそれで、素晴らしい揮発成分のオンパレードで、めくるめく思いが堪能できるのですが、そういう目が回るような体験とは別の落ち着いた味わいが、ある一定以上の中深煎りや深煎りには存在します。

それは間違いなく、2ハゼの力、影響によるものと思われます。

ただ、発熱反応と言われる2ハゼのエネルギーは時に絶大で、すぐにいろいろな成分を破壊し尽くしてしまいます。

2ハゼ後のコントロールは、投入前後の判断の難しさ、シビアさと別のところにあり、それまでの焙煎の経緯がすべて影響してくることもあって、本当に簡単ではない。

でも、そこをうまくクリアできる焙煎環境なり、スタイルを確立できたならば、1ハゼ しか経験していない豆とは別の世界の新しい魅力が長く楽しめる。

特に焙煎が深くなればなるほど、いき過ぎた、バランスを徐々に取り戻すように、時間が経つにつれて、徐々に失われたと思っていたフレーバーが形を変えて戻ってくるような感覚を覚えます。まるで振り子のように。

もっといえば、いわゆるアンダーな、発達不足気味な焙煎は早めに少しだけ空気に触れさせたり、粉にしてから、内部の水分を少しだけ抜いたら、早めに脱酸素剤をかけると、足りないと思っていた何かが環境の作用で徐々に進行方向に進んで、アンダーに感じられず、長い時間たっても楽しめるコーヒーになったりすることさえあります。そこにはまるで慣性の法則が働いているようです。

いわゆる化学反応における可逆反応みたいなことが起こってると感じるのは、少々いき過ぎたと感じるものは、焙煎後、適切に扱えば、徐々に戻ってきます。さらにはちょっと思い切って行った方が戻りが早いと感じることさえも。

ただし、なんでもおもいきりがよければいいとかというと、限度もあり、一般的には、1ハゼ と2ハゼが同時に来るような激しい熱のくわえ方をすると、焙煎直後は美味しく感じても、日持ちしにくい。

かといって、あまりまったりだと、もうどうにもならない。

その点、スパッと切った、浅煎りはわずかに生気味でも、アンダーでもなんとかなる。

 

物理や化学の法則が単純に豆に当てはまるとは思いませんが、勝手に、焙煎豆のドップラー効果とか、ローレンツ収縮とか、そんなことさえ考えてしまう、くろちゃまめでした。