The Coffee Roaster House

just around five pounds retreat

お湯の温度を語ることの難しさ

ほとんどの人はやかんや鍋がぐつぐつと音を立てる段階になったら、ほら沸騰している。ガスが無駄だから、といって火を消してしまったりします。

でも、実際、鍋の形や加熱の仕方にもよりますが、70度台の後半くらいから、結構、そこの方からブクブクと泡が出てきて、沸騰というのが適切かどうかは別として、音がしたりします。そして、ほとんどの人が沸騰し始めたという段階でも実際には90度も言っているかいないかという場合が結構あります。

どうしてもこういうことが起こるのか。

一つは対流という現象があり、鍋の中でも温度のムラがあるからです。

でもそれ以上に重要なことがあります。実は温度には実体というものがないのです。温度というのはそれぞれの分子が持っている運動エネルギーの状態を全体として大まかに温度計で観測して数字にしているにすぎません。

たとえば100度の水を調べてみても、すべての水が同じ運動エネルギーを持っているわけでなく、かなりばらつきがあります。

ちょうど大気圧と釣り合うところに達するところで沸騰が始まるわけですけれど、温度計が100度を示しているとき、100度にピッタリそうとしているエネルギーをもった水の分子もあれば、70度に相当するものもあり、一部は130度に達した水の分子が平均的に帯びている運動エネルギーと同等の運動をしている分子が混じっていたりします。

ですから、実際に70度くらいの温度でも、一部の水の分子は十分に水面から勢いよく飛び出ていけるエネルギーを持っているのです。そういう分子の割合が一定の割合を超えて目立つようになると、沸騰し始めたように感じるのです。

もちろん、常温でもある程度の水の分子は空気中の水蒸気と常時入れ替わっていますから、はっきりここから、蒸発が始まったとか、沸騰が始まったとか、線を引くのは難しいのですが、70度台の後半ぐらいになれば、100度の水が持っている平均的なエネルギーと同等の運動エネルギーを持った分子の割合が目立ってきて、音がしてきたりするわけです。

ということなので、実はサイフォンだって、必ずしも100度の湯温で抽出しているとも限らないわけです。圧力がかかっているから、はっきりしないものの、ごぼごぼと抽出が始まる温度はぴったり100度ということはない。閉じられた空間なので、圧力があがて、沸点が上がりそうですが、むしろ、少しでも水面から飛び出る分子があれば、その圧力で持ち上がってしまうわけですから、おそらく条件によっては90度台のもっと低い温度からごぼごぼ抽出を始めているはずです。

ですから、上手にサイフォンで抽出されたコーヒーはドリップに比べれば熱い状態で入りますけれど、100度で煮たような感じはしないはずです。