The Coffee Roaster House

just around five pounds retreat

最期の晩酌 ②

父の喉はたくさんの食べ物を与えられて、膨らみ、それまで口の中に溜めることのできていた痰はいつの間にかおさまってしまって、口の中がカラカラになってしまいました。

唾液も含めて口腔内に溜まったものを吸い出していた分がほとんど出てこなくなったのです。

実は脱水症状等を懸念して、栄養剤をいれるチューブ一式を貸してもらえないかと初日にお願いした翌日の朝、代わりにシリンジを持ってきていただいていたので、慌てて、40度くらいに温めたお湯をコーヒーをブレンドして、胃瘻から注入したりしまして、ちゃんと尿は出てきたものの、思うようには改善しません。

体温も上がったり、と思えば下がったり。

すこしずつ喉から胃に降りていたと思っていた水分はほとんど喉にひっかかって降りていないようでした。

とすると、本当にもう、後がない。アルコールの影響で顔は紅潮しているものの、初日と違って覇気がありません。

体もなんだか、ただのゴムの塊のようになってきて、すこしずつただの人形のような反応になり、お手本のような腹式呼吸のリズムを刻んでいた呼吸も乱れて、胸と腹が不規則に波打つように振動して、激しい呼吸音はしていても、実際にはほとんど空気を吸い込めていない状況になりました。

いわゆる気のエネルギーのようなものもほとんど受け付けられずにはねかえってくるような状態でどんなに念じても疲れるばかりでした。

これはひょっとして死線期呼吸といっていいものでは?

以前、父が肺炎を起こしてうなされた時もほとんど同じような息をしていたので、まだまだなんとかなるかもしれないと、一縷の望みを繋ぎながら、

いよいよか、と覚悟した瞬間でした。