1つのハゼは、ビックバンや恒星の誕生に相当する出来事ではないかと思っているくろちゃまめです。
本当のことをいえば、米だって、麦だって、条件によっては密やかに、大人しく爆ぜます。
機械を使うとポン菓子の製造ができるようにおおよそすべての穀物がそうかもしれません。
中でも象徴的なのはポップコーンです。でもポップコーンが美味しいのは塩やらバターやらキャラメルやらを熱いうちに絡ませるからで、そのままではほとんど味を感じないくらい味気ないものです。もう、わずかな甘みさえ感じられず、サラダ油みたいな風味ととうもろこしの香りがするだけです。
でも、コーヒーは違います。コーヒーのはぜ、特に一ハゼの最中。果たしてどういうことが起こっているのでしょう。
コーヒーの豆にも構造があり、他の穀物。特にとうもろこしの粒と比べると少し複雑です。例えば横の断面で切ると、ピーベリーなどは巻き貝のような形をしています。そして、豆にもよりますが、通常の形の豆ですと、ハゼの後に内側に空隙を生じる場所が最大3つか4つほどできます。
豆の外側は少しワックスのようなもので覆われて硬い部分ですが、その硬い部分は折り畳まれて内側にも存在しています。まるで動物の内腔みたいな構造です。折り畳まれた部分の中心部分には柔らかい構造があり、その部分に熱が加わると、水蒸気や二酸化炭素が溜まり圧力が高まると爆ぜるようです。その後はこの部分で加速度的に化学反応は進んでいくようです。センターカットのチャフはロールケーキのクリームみたいにみえなくもありません。(ちなみに実際、割ってみると、センターカットは内部で折り曲がっていて、すべての豆でセンターから少し外れていたりします)
ミクロイドの先発隊の事前調査結果からすると、それぞれ部位の細胞の持っている栄養素の構成比には違いがあるようです。あいにく、ミクロの世界で機能する分析装置の開発にはまだまだ時間がかかりそうですので、ここではさまざまなティスティングで磨かれたミクロの3勇士の味覚を頼りに、大まかな概要をお伝えしましょう。
ミクロの力を借りて、サンプリングしてみると、あるところは、酸が優勢、こちらはおそらくクエン酸が、こちらは、まだまだクロロゲン酸(少し苦渋い)が優勢など。ある場所はどうも油脂を溜めこんでいて脂質が多い、そして、それぞれに脂質や糖質、タンパク質の割合や構成するアミノ酸にも若干の差異があるようです。
そして、1ハゼの前では、大きく偏っていたこれらの物質の分布は、なんと、ハゼが中盤を迎える頃には、偏りが改善されるとともに、新たな物質がたくさん生成されている兆候が見られたのです。
これはどういうことか。つまり、ハゼの前後の蒸気の噴出は豆の内部のそれぞれの部位で生成しているコーヒーの元の成分が新しく出会って、化学反応をする大きなきっかけを生み出していると思われます。残念ながら、ハゼの最中の豆の中にミクロの力で潜り込んでも行方不明になって2度と帰ってこれなくなる可能性が高いのでできません。
それこそ、決死隊になってしまいます。ということで実際に何が起こっているかは想像するしかないのですけれど、要するにこういうことです。
ハゼの瞬間のエネルギーは豆の内部の複雑な化学反応のきっかけを与えている。だから、少なくとも一ハゼを大半の豆が経験していない限り、それはコーヒーの前段階の飲み物である、と。
ですから、いわゆる生焼けになりにくく、しっかり芯まで煎りやすい焙煎機とそのようなことが可能になる焙煎スタイルであっても、ぎりぎりシナモンからが、コーヒーと言えると思います。でも、本当のところ、まだまだ一ハゼの途中であるとおもえば、この時点では半人前なはずです。
高級な豆のフルーティな感じを存分に味わいたい。そして、わずかなコーヒーの苦味も雑味と感じてしまいやすい方にとっては最上級の楽しみというケースもあるかもしれません。
正直この段階のカップは、自分にとっては、コーヒーでなくてもいいんじゃない?と言いたくなるところで代わりにジュースでも飲んだ方がよほど合理的に思ってしまいますけれど、1日10杯、20杯飲んでも苦にならないでしょうから、現代の北欧のライフスタイルとは合致しているんだろうなあと想像します。(実際フルーツを買ってきて齧った方がいいんじゃないかと思うくらい贅沢な選択です。)