The Coffee Roaster House

just around five pounds retreat

焙煎とはコーヒー豆の調理の一過程であって、それ以上のものではない…といってみる

SCAJ 2023そしてその中のRMTCも盛大に行われたようで、お疲れ様でした。というかもうすでに結構経ってしまっていましたね。

色々な条件が整わなくて、今年はスルーさせていただくことになりましたが、先日、会場での様子などを人伝に聞きまして、へえと思ったり、おやっと思ったり、日本のスペシャリティの世界も日進月歩というかすこしずつ世界に追いついていっているのか。

ところで、先日、もう10年以上使ってきた圧力鍋がハゼて底に穴が空いたまま騙し騙し使っていたのを光熱費の高騰もあって、やっと更新しました。かなりの深煎りで頑張って、それなりにうまく炊けていい味を出していたんですが。

実は新しく更新したのも、同じメーカーの15年以上前に発表されたモデルですでに廃盤になっているもの。さすがに2006年あたりになると、マレーシア製らしいのですが、届いてみてびっくりの高品質。以前使用していたものは中国製で初めからガタガタだったのですが、製造工程から全く違い、別の工場で作られているよう。他社製品ではないかというくらいぴったりした作り。10年保証を謳ったプロ用途向けの製品ラインナップとはいえ、こうも違うのかと。ひょっとしたら、釜の下の部分だけOEMで他社の設備で作ってもらってからマレーシアに送って製品にしていたのかもしれません。なぜかどこにも製造国が明記されていない。

ちなみに性能的には加熱時間は推定2分の1以下、蒸気のバルブも静かでなおかつ蓋を開けられるようになるまでの時間さえも3分の1。同じプロ向けシリーズの最新版ではコストダウンなのか鍋の構造が改変されて軽量化され、家庭用のモデルに近くなっているので、貴重なモデルなのです。ただし、全体の熱設計、プラスチックで作った部品のデザインや材質に問題があって、急冷を多用すると1年未満で部品交換が必要になるもよう。最短で1ヶ月で破損するとは家庭用としても致命的です。仕方ないのでプラスチック部分に熱が回り込みにくいように工夫して大事に使わなくてはなりません。ちなみにこれ2.5気圧にちょっと足らない圧力で沸点は126度だそうです。(ゲージ圧で1.5未満)

焙煎中のコーヒー豆の内部は一説によると10気圧にも20気圧にもなるとどこかの本に書いてあったような気がするのですが、仮に20気圧だと水の沸点は213度を少し切るくらい。10気圧でやっと180度を切るくらいなので、さすがに計算が合わない。

比較的豆の状態をしっかり測れているであろう焙煎機の豆温度計の表示は1はぜのスタートで160度超えるか超えないかくらい。半分焙煎機の中の空気の温度を測っているものでやっと180度超えを表示するので、豆の内部がハゼのスタート時点でこれ以上の温度になっているとは考えにくいのです。ということで上手に加熱して内部と表面の温度のムラが無視できるほど少なくできたと仮定して、165度とすると7気圧くらい。

まあ、6−7気圧とすると、妥当な線かもしれないと思います。

ということはやはり中心近くまでこれくらいの温度にならないと十分に水分も抜けず、本格的なメイラード反応やその後のカラメル化も豆全体で十分におこらないということになります。

しかし、そんな高圧になるまで、どうやってあのたくさん小さな穴が開いていてスカスカに見える豆の内部に水分が閉じ込められているのか本当に不思議です。圧力鍋がステンレスで2ミリ程度の厚みででもって3気圧未満をやっと達成していることを思えば。

硬い皮で覆われているポップコーンでさえしっかり爆ぜるわけですから、ありえないことではないとはいえ、どうして、それだけの圧力を保持しているのでしょうか。一説によると通称ドライフェーズと呼ばれる段階の途中でガラスのような成分が豆の表面を覆って密閉するとも言われてはおりますが、ちょっと納得がいきません。ひょっとしたら、豆の表面は部分的に一般には2ハゼ前後にしか起こらないと言われている状態に早い段階で変化し、膠のような成分を作り出して、接着剤のような働きで水分を封じ込めているのかもしれません。

コーヒー豆は1つの豆としてもそうですが、何より豆の集まりとして明確に1はぜ、時には2はぜという現象を順に体験してコーヒーになってゆくものの、その変化は細胞レベルまで遡るとかなり早い段階から徐々に起こっている切れ目ない変化だけがあって、明確にここから1ハゼ、次に2ハゼと簡単に言えるような段階は存在しない可能性があるのです。特に一つの細胞まで遡ると、たぶん、1ハゼというほどの爆発的な振る舞いを起こしているものはもし、かりにあったとしても一部に過ぎないでしょう(本来、1ハゼは1つの圧力鍋のように機能する1粒の豆全体があって初めて観測される現象なはずですから)。

ですから、コーヒー豆の焙煎を焙煎機や焙煎スタイル、生豆の品質などを超えて普遍的に捉えようとする時、ハゼという現象に焦点を当てて、ここからここまでが1はぜ、1はぜと2はぜの間が何秒、2ハゼから何秒などとカウントすることには、古来から言われているほどの意味はない、と思われるのです。

であえてコーヒーの焙煎のステージを主要な段階で区切るとするなら

①(プリステージ)主に表面近くの水分がすこしずつ抜けて、内部に水分を封じ込める条件が整い始めるまでの前段階ー通称ドライングフェーズ

 

②(カラーリングステージ)適度に水分が抜けることで条件が整い、豆のあちこちでさまざまな反応が連鎖してつながり、かつ全体に波及しつつ、コーヒーならでわのフレーバーを醸し出す、さまざまな物質が新しく生成され始める段階ー通称メイラードフェーズ

 

③(ファイナルステージ)豆の空洞部分に多く溜まった水分が爆発的に解放されて、その後、いわゆる芯の部分に取り残された豆の大部分で急速に反応が進み最終的にコーヒーとして完成される最終段階ー通称ディベロプメントフェーズ

 

の3つに区切るだけで十分だと思います。白くなるとか一瞬でそんなの見ようとしたら、肝心なことを見落としかねない。ゴムみたいになるよとか、わざわざ毎回確認するものなのでしょうか?確かにニュークロップが例年どうりか確認するとか、季節の変わり目に予熱がうまく行っているとか、確認したいときは、それなりに意味があるかもしれません(これさえ、データにもしっかり現れることがほとんど)。確かに初心者の焙煎の学習には押さえておきたいポイントかもしれませんが。通常運転の焙煎には必要ないです。また、少なくともいつもの焙煎機でいつものスタイルでいつもの豆を焼いている限り、ハゼのスタートからの経過時間や温度もいつも通り進行しているか念のために確認する程度、申し訳程度に、推移くらいは見るとしても、本来、1はぜ、1はぜと2はぜの中間、2はぜと細かくステージを分けてみる必要はそんなにないかと思います。

もちろん、データロガーもなく、豆温度も測れない条件であれば、2つのハゼのステージは重要なバロメータになりうるとは思います。なんの機材も要らないし、焙煎初心者にもわかりやすいですからね。でも、ハゼの仕方ひとつとっても産地によっても結構違うし、熱の掛け方でも違う。例えば1はぜと2はぜの区別がつかないような激しいはぜを起こしている時には何が問題なのかというとほとんどの場合、最初の予熱を含めた入口の段階での火力設定が強すぎるからです。これ、ハゼまで行ってから修正することでないし、修正できることでもありません。やるとしても次のバッチからしかできません。

もちろん、商売でたくさん焼いている場合、みすみす大量の豆を無駄にするわけにはいかないので、ぎりぎり使えるようにしようとなんとか収めようとしたりせざるを得ないと思いますけど、つまり火を消すとか早めに降ろすとか。排気を上げるとか、アイスコーヒー用に切り替えるとか、好きにすればいいのですけど、基本的には手遅れ。

リアルタイムの豆温度どころかリアルタイムで数秒から10秒程度の間隔のRORまでしっかり監視しながら焙煎できる現在の環境ではもっと早い段階で手を入れることができるし、しなければなりません。

データロガーが当たり前に利用できる現代の焙煎において、ハゼのステージを細かく管理する以上にできることがたくさんあり、また最後のステージのはるか前にコントロールできるわけですから、ハゼのタイミングだけに頼るようなことは危険でさえあり、少なくともこれまで重視されてきたほどの意味はなくなっているのです。

手網にも温度センサつけたり、データロガーに繋いだりして色々やってみた結果の自分なりの結論です。

でも、これ、スコットラオがすでに本にしていることとほとんど同じだし、大体のスペシャルティの焙煎って、こんな感じじゃないですか。

もっとも、いわゆる中深煎以上の特殊な焙煎になると、最後の締めのステージや最初のドライエンドまでの持っていき方も少し特別なアプローチが必要になることだけは確かです。スペシャルティで求められる焙煎とジャーマンローストなどと言われる中深煎り近辺まで持っていく焙煎、はたまた日本の極深煎りを一緒にするのは、抹茶と紅茶と中国茶を、同じ茶葉から作るものだからと一緒くたにして論じているのと同じように無理があり、別に分けて考える必要があります。

総括すると、少なくとも、いわゆるハイに相当する程度までの2ハゼが本格的にスタートする以前までの焙煎であれば、①予熱も含めた初期の火力(豆の性質に依存するところが最も大きい)②メイラード反応が始まるカラーリングステージ(焙煎者のセンスが問われる部分、焙煎者の色、個性が反映される)③コーヒー豆の全体の印象が確定する最終段階(一般の方にもわかりやすいコーヒーの濃度感に最も影響が大きいので煎りドメのタイミングが最重要。焙煎機や焙煎スタイルが変わらなければ、あまり変えられる要素がない(前段階で失敗した場合だけは仕方なく対処する)の3つで捉えて構わない。

2はぜ開始以降はせっかく生成したコーヒーの揮発性分が煙になって失われていく過程として捉えるのが、どちらかというと現在のスペシャルティの主流のようですので、語るのは問題外というのが、平成以降の日本の若者世代の空気感でもあると思いますのでなおさら。

※コーヒー豆の表面→内側に畳み込まれている部分も含みます。

※※コーヒーの芯とはコーヒーの中心部分とは限りません。畳み込まれた豆の内側の部分の焙煎の前半では、もっとも火が入りにくく、水分が抜けにくいと思われる部分です。そして、特にはぜ中盤以降大きく豆が膨らむ段階ではここの部分には新しい空隙が生まれているようです。この部分は相対的に密度が低いか成分が異なるのかもしれません。