The Coffee Roaster House

just around five pounds retreat

昭和の残滓 酸味が特徴、とかそうでないとか 

昔、読んでいたコーヒーの本には(田舎で入手できる範囲のことですので、そんなに多くの書物を確かめたわけではありませんが)生産国ごとのコーヒーの特徴がかんたんに説明されていました。

ある国は酸味が薄くて、中深煎りでボディがしっかりしてきて、親しみやすい中性のバランスの取れた味。隣の国はさらに中庸なテイストで女性向きの穏やかな味、あるブランドは酸味がきわだつ銘柄、浅煎りで少し足が速いので早めに飲みましょうとか。別の銘柄はとても素晴らしい香りがして、全てが調和されていて、最高級だけれども、本物は少ないとか。大体書いてあることは同じ。

そして、実際、地元の喫茶店で分けてもらった豆の印象も大筋ではそんな感じでした。

ちなみのその時代のコーヒーの産地ごとの価格帯で下の方から数えると、いまだと考えられないのですけれど、たしか、ブラジル、ドミニカまたはコートジボワール、コロンビア、マンデリン、(トラジャ)、キリマンジャロ、普通のモカ(イエメン)、モカマタリ(イエメン)、ブルーマウンテン(本当に本物?)の順番でほぼデパートなどでもおんなじような品揃えだったと記憶しています。

生産量の関係もあって、一番安いのはブラジル、最近はそうでもなくなってきているかもしれませんが、とにかく量と品質が安定していて、極端なハズレはなかったのがかつてのブラジル。今は相対的に他の国が頑張っているので、一概にはいえない感じも。

(ブラジルはもともと標高が低く、かつて産地だった地域はサステナブルでないというか伝統の焼畑農業のために使えなくなって、さらに条件が悪くなり、なおかつ工業化も進んで、かつてほどコーヒーに適した土地が少なくなってきているのかもしれません。それと何より、今の日本は買い負けていて、80年代みたいに普通にいい豆は入ってこなくなっているのが影響しているはずです)

ところで、テスト用に購入したあるところのスタンダートに毛が生えたくらいのスペシャルティを浅煎り気味で焙煎して日にちが経ったものを淹れてみたところ、第一印象では結構、スペシャルティ感がでて、この銘柄のベストの焙煎度だろうと辺りをつけてみたものの、少し冷めてくると、もう明らかにカビ臭が優勢となっていきます。

同じ銘柄でさらに浅い焙煎だと酸味も漂って、そのおかげでそこまでカビの存在感はないのですが、飲みにくさとグラッシーな感じが支配的。

結局、精製方法やテロワールおよび輸送時の劣化作用の限界で浅煎りで楽しめる銘柄とそうでない銘柄ははっきり分かれる。とてもでないけれど、地球の反対側から船でやってくる銘柄は特に不利で、ある程度以上深く焙煎しないと商売にならなかった。だから酸味がないということにして売り出さざるを得なかった。

対照的にもともとテロワールの関係で成分が濃く、酸味も強めで特徴的な銘柄はその酸がうまくコーヒーの傷を目立たなくしてくれることもあって、そこを売り出した。

そして、丁寧に作られてバランスの取れた銘柄で赤道を二回またぐようなことがないブランドはそのまま高値で売り出す。

かなりその当時の生産技術や輸送の限界と商売の都合が反映された画一的なラベル付けが行われていたのがわかります。

実際は酸味がないと言われている銘柄も焙煎次第で、それなりにしっかり酸味を感じやすい焙煎もできるし、逆もありです。焙煎していたら当たり前に気がつくことではありますけれど。

今回焙煎した生産国のごく普通のスタンダードでも、それなりに品質管理はできていて、大量生産確立後の産地としての歴史もあるために、うまく焙煎すると、他国のスペシャルティと間違えかねない焙煎に持っていけることもしばしばあります。ただ、どうしてもナチュラルなのでカビの影響が大きめですので、特に入荷して時間が経つとどんどん厳しくなる。そして焙煎して時間が経つとあるところからぱったり、落ちてしまいます。下手すると、2日目(30時間後くらい)からもう、急降下です。

で、どうしても中深煎り位に持っていかないと安心して提供できない感じ。

もうこれはほとんど宿命ですね。

何が言いたいかって、これこそが、やはりコーヒー豆こそ、国産じゃなきゃ、とおもったりする理由の一つです。

キリマンジャロタンザニアです。今とは全く別物でした。

**1980年代 当時日本の経済力、国力が増していたためか、モカといえば、田舎でさえ全量イエメンだったと記憶しています。少なくとも自分の買ったモカに関しては。特に当たりのバッチですと、今のパナマ・ゲシャクラスの当たりの焙煎と比べても負けないくらいのアロマがしていました。

***そうだ思い出した。スタンダードのコーヒーのカビに閉口して産地に農園を持ちましたということで大体的に広告出していたあるところの焙煎を試したとき、一応老舗と言っていいくらい長く商売されておられるところなのに、今時の浅煎りスペシャルティ風で驚いたことがありました。確かに美味しいし、一般受けしそうだし、年配者でも評価してくれる。絶賛に近いくらい良い。

ただね。自分から言わせると、浅煎りにしたために、結構、微妙にカビの影響が隠せない。

地域的に基本ナチュラルで精製するわけで自然なことではあります。ここの商売を批判するつもりはないし、看板に偽りありというつもりももちろんありません。

地球の裏側から持ってくるわけですから。ただ産地の品質そのままに日本で味わうというのは簡単でないと思いましたよ。

これって日本のコーヒーのあり方全てに絡んでくる問題でちいさな喫茶店レベルでどうとかいうレベルを超えているとおもいますから。しかし、そろそろ21世紀の技術でなんとかならないものですかねえ。