The Coffee Roaster House

just around five pounds retreat

カカオの焙煎②

まだちょっと齧ってみた程度ですが、カカオの焙煎をやってみて改めて思うことがあります。それは人間が好ましいと思うフレーバーのほとんどに酵母や乳酸菌などの微生物が絡んでいると言う可能性もしくは疑いについて、です。

テロワールに関係なく、どこの産地の豆であっても、焙煎の度合いがある段階にくると、精製による差は相当ありますが、ほぼ例外なく、カカオやチョコレートを思わせるフレーバーがしてきます。

これコーヒーの場合ですけれど、不思議なことに味噌を作っていても、いろいろやっていると、まさにチョコレートそのままを連想させるようなフレーバーが結構な頻度でしてくるのです。特に白米の代わりに玄米の麹を使うとかカカオ豆ににた外皮をまとった豆を使用するなどすると顕著です。

(ちなみに逆にコーヒーで味噌のフレーバーを感じることもたまに。)

最近、福岡のスーパーなんかでも見かけるようになったちょっとスペシャルティなチョコレートなども、パイナップル風のフレーバーがしたりといったことがあります。こう言う時に出てくるフレーバーというのはスペシャルティのコーヒーで言及されるフレーバーと結構被る感があります。

でも、やっぱり最も頻度が多いと言うか、一般的なのは、他に表現が難しいですけれど、あのチョコレートらしいフレーバーです。ま、当たり前と言えばあたりまえですけれどね。だって、ココアやチョコレートとして販売する目的で製造しているわけですから。

このチョコフレーバーですが、カカオの生豆の段階でも微かにしていますけれど、これカカオの場合はコーヒー以上に積極的に発酵させているので得られているもののようで

おっと、これはやっぱり酵母菌や乳酸菌やらのしわざじゃないかと思う他ありません。

というか、チョコレートのフレーバーに限らず、ベリー、パイナップル、マンゴー、トロピカルフルーツ、もう何でもかんでも、みんな、そうだと言う気がなんとなく、しています。

いわゆるスパイス類をいったんちょっと横におきますと、舌先だけで感じることのできる砂糖、塩、を除き、ほぼ全ての調味料や食卓で味を整えるもの、たとえば、日本の場合で、しょうゆ、味噌、みりん、日本酒などの酒類から酢まですべて発酵させた製品です。

タバスコ、マスタードあたりも発酵の度合いは高い。色々なソース類も単に調味料と野菜を混ぜ合わせただけに終わらず、ある程度の発酵の過程を経ている可能性がある。

ひょっとしたら、程度の差はあれ、マヨネーズやケッチャプさえも例外ではないかもしれません。

そして、唐辛子やこしょうなどのスパイス類も、青い間は多少辛味があっても単調だったりします。ある程度熟してから、乾燥させる工程を経て、好ましいフレーバーを発散させるケースがほとんどではないかと思うのですけれど、ここにもさまざまな微生物の活動が絡んでいるはず。

結局、人間が味と捉えているものは、かなりの部分、嗅覚に頼っている。それも微生物の作り出した匂い、フレーバーに支配されている。そのように感じられるのです。

カカオの焙煎①

カカオの焙煎温度は一般には100度から145度位だそうです。

ちょっと幅を見ても95度から150度くらいでしょうか。

仮に中間として120度ぐらいの温度で勝負するわけですから、コーヒーの焙煎に使う温度の6−7割ぐらい、かける熱量にすれば半分以下。なんだかんだで三分の一位の火力に絞る必要が出てきます。これ、特にガスを使う焙煎機にとってはかなり厳しい条件になります。ガス圧でいえば、4分の1から9分の1以下に絞るということですから。

ただコーヒーとの共通点もありまして、ちゃんと熱をかけると膨らむし、ハゼます。

しっかり音を出してハゼるときの温度はおおよそ150度以上、どこまで正確に見れているかはっきりしないものの、煙を出すような条件でなければ推定180度以下。カカオは脂肪分が多く、中心部分までしっかり身があるので、熱が伝わりやすいことがあると思います。ちなみにポップコーンのはぜる温度も条件によりますけど、3キロの本体温度計の表示で165度くらい。

コーヒー豆の場合も中心部分の温度はかりに高くてもほぼ160度以下ではないかと思うので、おそらくこの辺りの穀物や豆(種)がはぜる温度の条件はそんなに隔たっていません。

ある程度はコーヒーの知見が活かせそうではあります。

ただ、豆自体が本当に大きいんですよね。そして一粒ずつ、齧ってみることもできます。

液体にしないと評価の対象になりにくいコーヒーと違って、カカオの場合は豆の状態のままでもそれなりに豆のフレーバーや、ちょこっと、チョコレートっぽさも感じられて、ある程度の仕上がりが予想できる。それが豆一つ単位でできる、これはでかい。

8gとかまとまった単位でしかなかなか評価が難しいコーヒーとは大違いなところです。

つまり、カカオの方が、コーヒーよりも焙煎中の評価はしやすく、小ロットの生産にも向いています。

bean to barが流行るわけですよね。

豆つながり カカオとコーヒーと…

しばらくほぼ完全に嗅覚を失っておりまして、最近になって、やっとこさ、油の温度がかすかに匂いで判別できる程度に回復してきたので、焙煎に挑戦してみました。

ちょっと前まで焙煎したところで、もう、ほとんど雑味成分だけが拡大して感じられるだけで何もわからない状態でした。あの、焙煎中の特にハゼの前後の香りがまったくわからないくらいだったのです。

これを機会にいろいろな豆を試してみたら、隠れた雑味成分がはっきり知覚できて面白いかもと思ったりもしたのですが、どう考えても単なる粗探しにしかなりませんし、何よりそんなことしていても、自分自身が楽しくないので控えておりました。

まだまだリハビリの途上でありますが、自分にとって嗅覚というのはあらゆる五感の中で一番中心的なものだったということが今回初めて認識できました。

嗅覚が働かないと、舌先ではほとんど甘味と塩味しかわからない。苦味さえほとんど感じられない時期があり、それなのに、はっきりある種の雑味はしっかり感じられるのですから不思議です。

それと、たとえば自然栽培でない玄米を炊いたりすると、まるで田んぼに顔を突っ込んだみたいなメタン臭と、安い化学肥料そのままの臭いが拡大して感じられたりして、まったくお米が炊けたときの好ましい匂いがわからない。

どうなっているのかと。

ただ、やはり自分にとってももっとも信頼できる感覚は嗅覚みたいです。

ほとんど全感覚の6割くらい依存していると感じる瞬間さえあります。いつもではないんですけど。その割には自分の体臭とかはやはりマスキングされるのか、わかりにくいですけどね。これは脳の方でキャンセルしてしまうんだろうと思います。

一種のノイズキャンセラですね。

今回、初めてチョコレートの原料、カカオ豆を焙煎してみましたけど、これ、本当に煎りたてのアーモンドみたいな香りがしてきたりして、なかなか良いです。

カカオ豆が高騰していまして、もう少し前にまとめて購入しときたかったなあと思っています。

 

麹作りとコーヒーの接点②

今、産地で嫌気発酵したりするのが流行っていますが、そのままだと、日本に来るまでにまたまたバランスが狂って、イマイチになってしまいますよ。

いっそ、ドローンでも気球でもなんでもいいから、空輸して日本に持ってきてから、発酵させて欲しいもんです。

ところで、モカなどの古くから名を馳せている産地の銘柄でそこまでカビを意識することがないのはどうしてだろうと考えていましたら、やはりここにあるのではないかと。

つまりこういった産地ではカビ以外の微生物が十分に豆の表面で活動できる条件をある程度保った状態で収穫後過ごしていて、出荷後にもカビの活動が相対的に抑えられるので、品質が保たれている可能性もあるのではないかと。

ですから、産地で色々やるときは、日本に来る前提のマメだったら、船の中で品質が保たれることを優先して、微生物の種をつけたりすべきだということです。

その後は、必要に応じてアレンジは日本ですればいい。なんとかバスケットとか。そういうのは楽しいけれど、カビにまみれたら元も子もないわけですから。

雑菌の繁殖しやすい温度帯と酵母等の活動する温度域はかなり被っていますし、カビもなんですけれど、そこは最初に高めの温度で減菌しておいたところを、適切な酵母や乳酸菌を種としてつけた上で、じっくり輸送中に熟成させればいい。湿度の条件が適切であれば手作り味噌みたいに温度管理はそこそこでいいかもしれません。この辺りは味噌の発酵みたいなもんで、ある程度季節の変化を経験しながら、最大9ヶ月くらいかけた方がむしろ、いいかもしれないくらい。南半球からの船便も結構いけるかもです。

スペシャルティの高いクラスでコスト度外視なら、輸送時の温度に関していえば、ヨーロッパ地下室保管ワイン基準のリファーコンテナの15度というのはまだまだ高すぎて、理想をいえば、ぎりぎり乳酸菌が活動できるくらいまで落としてあげてもいいくらい。

で、日本に着く頃にはいい具合に熟成されている、というのはどうでしょう。

いずれはコーヒー豆専用熟成機能付き運搬船の建造へ。とりあえずはコーヒー豆専用コンテナからですかね。

どこかためしてみてくれないかなー。

麹づくりと珈琲の接点①

今、いろいろな穀物やらで麹を作ってみております。麹といえば聞こえはいいですが、ようするに、カビ。麹屋さんはよく、カビの一種とかいわれますけど、少なくともみかけはもろカビそのものです。

白い菌糸が伸びてきたり、緑色の胞子を放ったり、これほんと、正真正銘のカビでしかありません。ただし、なぜか食べ物を甘くしてくれたりする不思議なかびなんですよね。

白米の麹はそうでもないのですが、玄米麹となると難しくて、下手すると見かけは市販の麹以上にしっかりしているのに、甘酒にしてみると少し雑味を感じたりして、なかなかに難しい。ちょっと知人に試してもらうにも躊躇うレベルです。

ここまで来ると、単なる実験とはいえ、菓子製造業の許可がもらえるレベルの設備を整えてきちんとやるべきかもしれないと思い始めています。

味噌の場合、絶対に白米では得られないいいものが作れるので、麹は玄米でないと、と思ってわざわざ作ってみているのですが、ともすると、味噌に使うにもバランスが悪く感じて困ったりします。

そこで白米で作った麹を混ぜるとあら不思議、それだけで復活、だんぜん、よくなったりします。一回、ちょっと減菌してあげると雑な感じは完全に影を潜めます。失敗したのは最初温度が少し高すぎて、酵素が失活してしまったのが一番の原因でしょうか。

それにしても面白いというか奥深いというか。

玄米で作った味噌とかなかなか主流にならないのもわかります。糠分が利用できる分、原材料的には安くなってもおかしくないけれど、一定した品質を保つのが難しいからなんでしょうね。

でいろいろやっているうちに、コーヒー豆に含まれるカビ由来の成分をはっきり検知できるようになってきたみたい。

あー、これという感じ。今までポストハーベスト剤の残りかなーと思っていた成分もかなりカビ由来だったようにも思います。

ただ、カビが全部マイナスとは限らないのが悩ましいところ、実際一部がカビだらけにもみえる産地の銘柄を思いっきり深めにいってみて、面白いフレーバーがしてきたり、やはり小さな虫が齧るか卵を産みつけたように見える穴のところが微かにカビていたりして、そういうのが一定以上混じっている銘柄は意外と評判良かったりして。カビの仲間の一部に有害なものがあるというだけで、敬遠するのも間違っているし、そもそも完全に無くせばベストというものでもないように思います。つまりある程度は付き合ってゆくしかないのです。

で思うのですけれど、カビが優勢にならないくらいに酵母や乳酸菌などの微生物が適度に活動できる条件にあった方がコーヒー豆の品質は保たれるのではないかということです。

 

昭和の残滓 酸味が特徴、とかそうでないとか 

昔、読んでいたコーヒーの本には(田舎で入手できる範囲のことですので、そんなに多くの書物を確かめたわけではありませんが)生産国ごとのコーヒーの特徴がかんたんに説明されていました。

ある国は酸味が薄くて、中深煎りでボディがしっかりしてきて、親しみやすい中性のバランスの取れた味。隣の国はさらに中庸なテイストで女性向きの穏やかな味、あるブランドは酸味がきわだつ銘柄、浅煎りで少し足が速いので早めに飲みましょうとか。別の銘柄はとても素晴らしい香りがして、全てが調和されていて、最高級だけれども、本物は少ないとか。大体書いてあることは同じ。

そして、実際、地元の喫茶店で分けてもらった豆の印象も大筋ではそんな感じでした。

ちなみのその時代のコーヒーの産地ごとの価格帯で下の方から数えると、いまだと考えられないのですけれど、たしか、ブラジル、ドミニカまたはコートジボワール、コロンビア、マンデリン、(トラジャ)、キリマンジャロ、普通のモカ(イエメン)、モカマタリ(イエメン)、ブルーマウンテン(本当に本物?)の順番でほぼデパートなどでもおんなじような品揃えだったと記憶しています。

生産量の関係もあって、一番安いのはブラジル、最近はそうでもなくなってきているかもしれませんが、とにかく量と品質が安定していて、極端なハズレはなかったのがかつてのブラジル。今は相対的に他の国が頑張っているので、一概にはいえない感じも。

(ブラジルはもともと標高が低く、かつて産地だった地域はサステナブルでないというか伝統の焼畑農業のために使えなくなって、さらに条件が悪くなり、なおかつ工業化も進んで、かつてほどコーヒーに適した土地が少なくなってきているのかもしれません。それと何より、今の日本は買い負けていて、80年代みたいに普通にいい豆は入ってこなくなっているのが影響しているはずです)

ところで、テスト用に購入したあるところのスタンダートに毛が生えたくらいのスペシャルティを浅煎り気味で焙煎して日にちが経ったものを淹れてみたところ、第一印象では結構、スペシャルティ感がでて、この銘柄のベストの焙煎度だろうと辺りをつけてみたものの、少し冷めてくると、もう明らかにカビ臭が優勢となっていきます。

同じ銘柄でさらに浅い焙煎だと酸味も漂って、そのおかげでそこまでカビの存在感はないのですが、飲みにくさとグラッシーな感じが支配的。

結局、精製方法やテロワールおよび輸送時の劣化作用の限界で浅煎りで楽しめる銘柄とそうでない銘柄ははっきり分かれる。とてもでないけれど、地球の反対側から船でやってくる銘柄は特に不利で、ある程度以上深く焙煎しないと商売にならなかった。だから酸味がないということにして売り出さざるを得なかった。

対照的にもともとテロワールの関係で成分が濃く、酸味も強めで特徴的な銘柄はその酸がうまくコーヒーの傷を目立たなくしてくれることもあって、そこを売り出した。

そして、丁寧に作られてバランスの取れた銘柄で赤道を二回またぐようなことがないブランドはそのまま高値で売り出す。

かなりその当時の生産技術や輸送の限界と商売の都合が反映された画一的なラベル付けが行われていたのがわかります。

実際は酸味がないと言われている銘柄も焙煎次第で、それなりにしっかり酸味を感じやすい焙煎もできるし、逆もありです。焙煎していたら当たり前に気がつくことではありますけれど。

今回焙煎した生産国のごく普通のスタンダードでも、それなりに品質管理はできていて、大量生産確立後の産地としての歴史もあるために、うまく焙煎すると、他国のスペシャルティと間違えかねない焙煎に持っていけることもしばしばあります。ただ、どうしてもナチュラルなのでカビの影響が大きめですので、特に入荷して時間が経つとどんどん厳しくなる。そして焙煎して時間が経つとあるところからぱったり、落ちてしまいます。下手すると、2日目(30時間後くらい)からもう、急降下です。

で、どうしても中深煎り位に持っていかないと安心して提供できない感じ。

もうこれはほとんど宿命ですね。

何が言いたいかって、これこそが、やはりコーヒー豆こそ、国産じゃなきゃ、とおもったりする理由の一つです。

キリマンジャロタンザニアです。今とは全く別物でした。

**1980年代 当時日本の経済力、国力が増していたためか、モカといえば、田舎でさえ全量イエメンだったと記憶しています。少なくとも自分の買ったモカに関しては。特に当たりのバッチですと、今のパナマ・ゲシャクラスの当たりの焙煎と比べても負けないくらいのアロマがしていました。

***そうだ思い出した。スタンダードのコーヒーのカビに閉口して産地に農園を持ちましたということで大体的に広告出していたあるところの焙煎を試したとき、一応老舗と言っていいくらい長く商売されておられるところなのに、今時の浅煎りスペシャルティ風で驚いたことがありました。確かに美味しいし、一般受けしそうだし、年配者でも評価してくれる。絶賛に近いくらい良い。

ただね。自分から言わせると、浅煎りにしたために、結構、微妙にカビの影響が隠せない。

地域的に基本ナチュラルで精製するわけで自然なことではあります。ここの商売を批判するつもりはないし、看板に偽りありというつもりももちろんありません。

地球の裏側から持ってくるわけですから。ただ産地の品質そのままに日本で味わうというのは簡単でないと思いましたよ。

これって日本のコーヒーのあり方全てに絡んでくる問題でちいさな喫茶店レベルでどうとかいうレベルを超えているとおもいますから。しかし、そろそろ21世紀の技術でなんとかならないものですかねえ。

コーヒー論争その後

今週に入ってまだまだ残っていた新しいパッケージを開けたらしく、そこにはまったく別物のフレーバーが。

一般の方々であっても、これを飲むのかと頭を抱えていたレベルのあるレギュラー粉でしたが、新しい袋を開けると別物。焙煎のムラは簡単には気がつくにくいレベルです。

全体の焙煎度はほぼ同じですし、銘柄も同じですが、こちらは昔からある有名ブランドの商品と比較して目立って劣る点はありません。むしろ開けたてだと、最新ミルで挽いたおかげで結構煎りたて感を連想させるようなフレーバーも漂ってきます。

あえていえば、味の深みみたいなものは控えめで単調ですが、よくいえば飲みやすい。そして淹れ方による味のブレも少なめで好印象。豆のグレードは値段なり僅かに落ちますし、焙煎度も少しだけ控えめ、これをうまく煎りこなしているのはそれはそれで立派な焙煎技術です。

袋を開けて時間が経っていたのもありますが、以前、開けたパッケージは余程のハズレだったんでしょう。

先回と同じようにブレンドしてみてどうなるか試してみましたが、これほとんど印象変わらず。こちらで追加で用意した粉は普通のミルで粉にして数日経っているのもあってそこまで煎り立て感が強く出ることもなく、炭酸ガスの発生も控えめになったので、わざわざブレンドする意味は薄れます。

開封して時間が経った頃に、ちょこっと味変する感じでブレンドしてあげるくらいでちょうど良いと思いました。

 

濃口、薄口、甘口③

自分は東北地方や北海道地方の事情に疎いので、どうしても、関東以南の話中心になってしまいますけど、ご容赦ください。

ところで、コーヒーとは珈琲豆の成分を70倍に薄めた抽出液であること。あるいは希釈液に過ぎないこと。これはとても重要な視点ではないかと思っています。

かなり抽出の条件で変わるとは思いますが、ある資料によると、コーヒーの98.6%は水分ということです。ということはわれわれはコーヒーを飲んでいるつもりでほとんどがその地域の水を飲んでいることになります。

ですから、コーヒーというのは緑茶や紅茶と同じ程度には水分補給の手段でしかないわけです。

ちなみにカロリーは4kcal程度あるようです。紅茶はこの半分くらい。

若干の糖質、脂質、ビタミンその他の水溶性成分、カフェインなどを含みますが、どんなに濃く見えても栄養素の補給としては弱い。

自分のように眠気覚まし的な意図で飲む場合はカフェインをはじめとする成分の補給という目的、および嗜好品としての飲用というのは当然ありますけれど、なんといっても、98−99%は水分。その影響はとてもでないけれど、無視できるもんではないと思います。

つまり、抽出の土台となる水のことを考慮に入れないでコーヒーを論じるのは建物の地盤を無視して、建築物を建てるなり、論じたり。あるいはそれぞれの土地の気候風土を無視して、タネを蒔いたりするのと同じくらい無謀なことではないかと思うわけです。

それはアロマにも及ぶかもしれません。その土地の空気感、実際に大気の成分にも違いがあるとすれば、コーヒーの発する香気にも影響はあるはずです。

特にコーヒーを評価する時、その場所の換気、部屋の大きさ、天井の高さやテーブルの間隔や人の数などまですべて微妙に影響しているはずです。もっともコーヒーのドライのアロマをはじめとして、上等なコーヒーの発するアロマは十分に強力なのであまり意識せずに済んでいるだけだと思います。

ただ、これどうしても言いたいんですけれど、空気清浄機や空調の発達によってかなり今ではかなり改善されているとはいえ、都会の排気ガスにまみれた空気と田舎の大気で評価するコーヒーのアロマがまったく同じはずがありません。

もちろん田舎は田舎で近所の牧場の匂いやら、色々な煙やらただよってくるかもしれないし、結構田んぼ由来の泥臭いメタンガス満載の臭気も強烈なので、必ずしも都会が有利というわけではないんですけれどね。

とにかく、珈琲を純粋に評価するのは本当に難しい。

特に九州のとびきりいい環境でコーヒーを評価する時、下手すると、スペシャルティらしくない丸みのある深い焙煎が特に一般の人に評価されやすかったりするのも。

また都会で評価の高い焙煎が妙にとんがって感じられたり、また時に逆の場合もあるのも、抽出の技術や味覚の未熟さゆえとは限らず。

単に水や空気の差で説明できることの方が多いように思います。

単純に水や空気が良過ぎて、雑味成分やら尖った成分が目立ちやすかったり。

それが目立たない中庸な焙煎が好まれたりといったことがありえるわけです。

飲食全般に言えることかと思いますが、コーヒーに限らず。飲料の文化というのはその地域の水、空気、その他風土全てに影響されるものだと思います。

 

薄口、濃口、甘口②

関東の濃口、実は自分は別の理由があると思っています。

日本で最初に上水を作ったのは小田原でそれを手本に江戸の上水は作られたと言われています。同じ頃、四国や九州でも上水は作られていたようですが。規模は小さい。

ところが調べてみても、関西では明治の頃まで大規模な上水設備はなかったようです。おそらく井戸や湧水が豊富で、水に不自由しなかったのでしょう。

この差は大きいと思います。

つまり人口が増え続けている上、関東ローム層の特性から井戸の利用も限定的だった関東地方では早くから上水に頼る都市環境が作られていた。それも浄水施設がない水道ですから水質も安定しない。季節によっては長い経路を経て届く頃にはそのままでは料理するにもいまひとつ、といったことがあったのかもしれません。かといって川に汲みにいくわけにもいかない。そういうとき、少し濃いめの醤油で味付けするのは都合が良かったのではないでしょうか。

対照的に、水質の良い水が豊富に利用できて、上水に頼る必要性が低かった関西では関東ほど醤油を多用する必要がなかった。

そういう可能性もあるんではないかと。

もっとも、かつて、新鮮な食材の入手が困難だったが故にフランス料理がパリを中心に発展したとも言われているように、関東のそのような条件があったからこそ、江戸ならでわの食文化が花開いたという側面もあるかと思います。

そして、それは現在も続いていると思います。例えば、東京や大阪を本拠地としたメーカーの家庭用浄水器は低価格でも意外と性能良いですからね。

なにがいいたいかというと、今のスペシャルティの発展というのは浄水器などのコーヒーの水にまつわる器具や装備の進化と切り離せないのではないか、ということです、

そういう意味でも最先端は、まだまだ東京あるいは大阪(京都)はたまた名古屋(中部)。

オーストラリアのシドニーやら、ノルウエーのオスロやらアメリカのシアトルやらいろいろありますけど、21世紀の日本も捨てたもんではない。

そして、多少荒削りではあっても、日本の地方にも、ヨーロッパの片田舎にもまけないオリジナルな食文化やコーヒー文化がまだまだ眠っている気がするのです。

濃口、薄口、甘口①

一般に関東の醤油は濃口(九州人の感覚だとなんでもまっくろけ)、対照的に関西の醤油は薄口とされます。といっても関西であっても、あるいは九州であっても、保存性を確保するためにそれなりに塩分は必要なので、見かけは淡く見えても実際にはそれなりに塩味は効いていますし、またこちらからいくと、蕎麦つゆなどびっくりするくらい真っ黒けではありますが、関東の醤油もみかけほど塩分が濃いわけでもありません。

ただし、やっぱりというか、こちら(九州)を基準にすると関東は醤油に頼った味付けに感じますし、なんでもかんでも甘辛いというか醤油辛い。

外国の人が羽田や成田に着くと、醤油の香りがして、ああ、日本についたなと実感するというのもうなづける気がするのです。

自分が関東に住んでいた時分は野田の醤油の産地が近いし、昔から裕福だから贅沢に醤油が使えたからなのだろうかと思っていました。

そもそも関東と関西、出汁の取り方から違います。これは一応、定説としては少し硬めの水の関東と軟水傾向の強い関西の水の違いとして説明されることが多い。

たとえば、関東の水は硬水で昆布などでは味がでないから、鰹節をたっぷり使った出汁をよく使い、尚且つ、バランスを取る意味で醤油も濃くしている。

関西では軟水でごく微妙な出汁が取りやすいから、その出汁の繊細な味を壊さないように薄めの醤油が好まれると。

これ、いかにも上方の文化を上位にみるようなものの見方ではありますが、実際、京都をはじめとして関西の方が都としての歴史は古くそれなりの食文化の蓄積があるので、仕方がないところもあります。

そういう文脈ですと、九州はもっと水も豊かで澄んでいて、なおかつ急流を下って降りる分、軟水の傾向は強いと思います。そうなると、あまり尖った成分があるとすごく目立つ、いろいろな雑味も出やすい分、全体が丸くまとまる旨みや甘みが主体であることがより重要となります。

こういった面から、九州の甘口傾向も一応は説明がつきます。
なんといっても、農産物も海産物もより新鮮なので素材の味を活かす意味では余計な味付けはない方がよく、あえていえば全体を包むようなまろやかさや甘みがあった方がいい。どうしても天然由来のある種のアクや渋みは残るわけですから、それをカバーできる甘み主体の味付けが方が好ましいとなるわけです